2024/04/15 16:55
今月のメルマガを久しぶりに担当する島幸子です。お薦めのワインについて生産地のお話などを書くコラムなのですが、ソムリエのライセンスを取得したのは1991年の事。ニュージーランドのブドウ畑を初めて訪問したのはそんな頃です。(以下ワインは愉しいより引用)
著書の『ワインは愉しい』
ニュージーランドの畑を訪問する事になったのは、ちょっとした出来事がきっかけでした。
派遣先のフレンチレストランで出会ったスマートなお客様。商社に勤務され、海外経験も豊富、フランスワインが大好きな男性です。毎回どんなワインをお出ししようかと、ご予約を心待ちにしていました。
ある夜のことです。ゲストをお迎えするべく、ご予約の20分前にDさんはご到着。
素敵な笑顔が、その夜は少しくもって見えました。
「僕ね、ニュージーランドに転勤なんだ。羊とヨットとラグビーの国!」
どうせ海外勤務ならフランスがよかったとおっしゃるのです。「ニュージーランドワインなんて飲んだことないし、飲めないよ。フランスワインはあるのかな?」とため息交じりにおっしゃいました。
その3か月後、レストランにDさんから国際電話がかかってきました。「ニュージーランドは美味しいワインの宝庫だよ。」と第一声。日本向けにワインの輸出を検討しているので、
その候補となるワイナリー訪問にソムリエとして同行するようにとご依頼がありました
フランスワインしかお飲みにならなかったお客様の考えをそこまで変えたニュージーランドワイン。興味津々で機上の人となったのです。
ニュージーランドの中心オークランド。驚いたのはワイナリーが非常に近い事。オークランド市内から30分ドライブすれば、ブドウ畑に到着できるのです。週末は車でワイナリーを訪れて、気に入ったワインが見つかればトランクにケース買いしたワインを積み込む。なんて素敵な街でしょう。夜のネオンも早々に消える街。ワインの評価本をめくりながら順番にテイスティングするのがDさんの数少ない楽しみとのこと。
北島と南島に分かれ、周りを海に囲まれた国。魚介類に恵まれたニュージーランドでは美味しいソーヴィニヨン・ブランが数多く生産されています。一つのブドウ品種だけでワインのコースを組み立てられるほど、香りや味わいのバリエーションは豊富。青草の香りが強いもの、フルーツの香りが際立つもの、生ガキの殻の内側の白い部分のような香りの物まで非常に多彩です。レベルの高い酸味と抱負な果実味が特徴的な味わいを醸し出しています。
そして、赤ワイン。ピノ・ノワールには定評があるのですが、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランなど、ボルドースタイルの赤ワインも凄いものが造られています。
(引用ここまで)
この原稿に書かれている時代は北島のマタカナ、クメウ、ワイヘケ・アイランドが重要なワイン生産地でした。例えば、野球の桑田真澄さんはワインに大変造詣が深く、お詳しいのですが、彼の大好きなワインがマタカナで生産されているプロヴィダンスです。この旅の途中で、総領事の私邸でのパーティーに出席した時、総領事みずから大切に運んでいらしたのは、
ワイヘケ・アイランドで造られるゴールドウォーターでした。
さて、近年注目の生産地は南島のマールボロ。ソーヴィニヨン・ブランの大生産地です。
昔は寒すぎてワイン用のブドウ栽培には不向きだとされていたのですが、ブドウ品種をミュラー・トゥルガウやカベルネ・ソーヴィニヨンからソーヴィニヨン・ブランに変えて大成功をおさめたのです。
空港の床にワインのディスプレイがありました
1985年にオーストラリアのワイナリー、ケープメンテルがマールボロのソーヴィニヨン・ブランに惚れ込んで進出。その後ワイン業界でも有名なLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下となったのが2003年。ドンペリニヨンやルイヴィトンとともに世界に羽ばたいたソーヴィニヨン・ブランの特徴は、パッションフルーツ、グアバ、グレープフルーツと青草をカットしたような華やかな香りと、南極から流れ込む冷たい海風の影響で残る鋭い酸。ニュージーランド・マールボロ・ソーヴィニヨンブランのはっきりとした個性が世界のワインファンを虜にしています。
LVMHに買収されたワイナリーはクラウディー・ベイという名前で聞き覚えがある方も多いと思いますが、マールボロでは大規模生産者の中、一人の日本人が造る素晴らしいワインが存在します。数年前にクラウディー・ベイに行く途中に立ち寄った、本当に小さなワイナリー「Folium Vineyard」をぜひご紹介したいと思うのです。
フォリウム・ヴィンヤードの岡田岳樹さん
岡田岳樹さんは北海道大学農学部を卒業後、カリフォルニア大学デイヴィス校でワインづくりを学び、ニュージーランドでフランスの有名生産者アンリ・ブルジョアが造るクロ・アンリに入社。栽培責任者となり、2010年にフォリウム・ヴィンヤードを立ち上げました。
お一人でブドウ栽培から醸造まで手掛け、「高品質なワインを造る一番の近道は高品質なブドウを育てること」という信念のもと丁寧にブドウを育てていらっしゃいます。彼の造るワインは典型的なマールボロのソーヴィニヨン・ブランとは異なりエレガント。お食事に合わせて楽しむタイプの味わいです。クラウディー・ベイと比較して飲んでいただいても面白いと思います。今月のワインのご紹介でした。
試飲させていただいたワイン
ニュージーランドのぶどう畑には、鳥避けネットがかけられている畑が多く見られます